■本の情報
書き下ろし。単行本はポプラ社より2012年5月刊行、文庫本は同社より2014年4月刊行。
※写真は単行本版。
■あらすじ
5つの短編で構成される中脇初枝著の連作集。谷を埋めて宅地造成された町・桜ヶ丘を舞台に、同じ雨の日の午後が描かれる。
二年続けて受け持ちのクラスを学級崩壊させた若い男性教員(「サンタさんの来ない家」)、過去母から虐待を受け、自分の娘にも同じ仕打ちをしてしまう母親(「べっぴんさん」)など、それぞれの登場人物たちが直面する厳しい現実と、ほのかな救いを柔らかい文章でつづる。
■作品について
児童虐待をテーマに、虐待をされる側だけでなくする側の問題にも焦点を当てて丁寧に描いた作品です。今目の前にある虐待のことを伝えたいという気持ちから書かれたこの作品は、作家や書店員の熱烈な応援で話題となり、同年の「本屋大賞」4位となりました。
どの物語もすっきりとした結末が示されているわけではないので、本を閉じた後にいろいろと考えさせられます。一方で、物語にはほのかな救いが描かれますが、そこには虐待されている子どもが死なずに済んだ道を探したかったという筆者の願いが込められています。
中脇さんは、四万十市中村で暮らした少女時代、近所の人々に見守られて育ったそうです。『きみはいい子』で、虐待されている子どもに周囲の人が気付き、手を差し伸べていますが、作家自身が地域で大切に育てられたことと無関係ではないでしょう。